血糖トレンドのある暮らし

糖尿病のある暮らしのアップデート

ここがポイント
  • 糖尿病の治療は進歩を続けており、日々アップデートされている
  • そのうちの一つが、血糖トレンドという革新的な血糖変動の評価法である
  • 糖尿病専門医の西村 理明先生より、血糖トレンドを中心とした糖尿病のアップデートを紹介

監修:東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科 主任教授西村 理明 先生

アップデート① HbA1cを下げることが良好な血糖管理ではない?

糖尿病は、古くは藤原道長も患っていたとされる古い病気です。糖尿病の治療については、長い歴史の中で膨大な研究がされており、いろいろな血糖管理の方法が提唱されてきました。その中でも非常に広く用いられているのが、HbA1cです。過去1~2か月間の平均血糖値の指標であるHbA1cを下げることで、細小血管の合併症リスクは抑えられることがわかっています。一方、大血管症による心臓病の死亡リスクですが、HbA1cを積極的に下げることで、反対に上昇してしまうこともありうることがACCORD試験1, 2)という海外の大規模な研究で明らかになりました。
これまで考えられてきた、HbA1cを下げるための治療は間違いだったのでしょうか?

アップデート② HbA1cには限界がある

このような現象の背景には、HbA1cを下げようとするあまり、自覚されない低血糖が繰り返し起きていたことがあると考えられています。
HbA1cは血糖値の平均なので、HbA1cの値から患者さん本人が気づかない低血糖や、睡眠中の低血糖を見つけ出すことはできません。図の左の例のように、HbA1cは同じでも、実は血糖変動が大きくて血糖管理の質はあまりよくない、という場合もあるのです。
このことより、HbA1cによる血糖管理には限界があるということがわかってきました。

アップデート③ 新たな血糖管理の方法、血糖トレンド

隠れた低血糖の重要性が認知されるにつれ、血糖変動を常時測定し、見える化した血糖トレンドが注目されるようになってきました。
血糖トレンドは、持続グルコース測定(CGM)という技術を使って可視化されます。特別な操作なしに24時間の血糖変動を記録し、知りたいときにスマホを見るだけの簡単な動作で血糖変動を確認できる血糖トレンドは、まさに画期的な血糖管理方法といえるでしょう。専用アプリなどのデジタルヘルスツールを使えば、記録された血糖変動を患者さんと家族やパートナーとの間で共有することが可能です。
血糖トレンドにより、HbA1cや血糖自己測定ではわからなかった隠れた低血糖、そして高血糖の存在に気付くことができ、また人目や場所を気にせず血糖値をリアルタイムに見ることができますので、QOL(生活の質)の向上も期待できます。また、高齢患者さんでも、家族が代わって血糖変動を確認して、低血糖の際には適切な対処をとることも可能とします。デジタル技術が発展した現代ならではの血糖管理法ですね。

監修: 東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科 主任教授 西村 理明 先生
1)Gerstein HC, et al.:N Engl J Med. 2008;358(24):2545-2559.
2)ACCORD Study Group:Diabetes Care. 2016;39(5):701-708.
【参考】
西村理明: プラクティス 2014;31(1):75-82.
西村理明:CGM 持続血糖モニターが切り開く世界.改訂版,医薬ジャーナル社,2011.
小野百合:日本医事新報. 2020;5019:18-30.

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