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秋冬の感染症時期にどう備える?

今、知っておきたい糖尿病患者の新型ウイルス感染症対策

~食事・運動・血糖管理~

血糖トレンドに関する正しい情報発信を行っている 『血糖トレンド委員会』(代表世話人:東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科 主任教授 西村理明)は、2020年9月17日、「秋冬の感染症時期にどう備える?今、知っておきたい糖尿病患者の新型ウイルス感染症対策」をテーマに、オンライン患者座談会を開催しました。

座談会では冒頭、西村教授が「新型コロナウイルス感染症と糖尿病の最新状況」と題して、専門医の立場からミニレクチャーを行った後、3人の糖尿病患者が登壇。西村教授も加わって、「新型コロナウイルス感染の再拡大に、これからどう備えるか」をテーマに、意見交換を行いました。

オンライン患者座談会のアーカイブ映像は
こちらから視聴いただけます

以下、ミニレクチャーと座談会の概要をご紹介します。

1「新型コロナウイルス感染症と糖尿病の最新状況」

東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科 主任教授 西村理明 

2糖尿病患者座談会

~新型コロナウイルス感染の再拡大に、これからどう備えるか~

1.「新型コロナウイルス感染症と糖尿病の最新状況」
東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科 主任教授 西村理明

新型コロナウイルス感染症の現状

西村教授は、新しい感染症を考える際には必ず歴史を見るべきだとして、ほぼ100年前に流行し、日本でも感染が広まったスペイン風邪の状況を紹介。「欧米、日本でも第1波、第2波の感染の山があり、今の新型コロナウイルスの感染状況と似ている。全く同じではないが、感染症がどのように拡大し、収束していくのか、100年前の記録から学ぶことがある」と指摘。最新の各国の感染状況については、PCR検査数、PCR陽性者数、死亡数などのデータを用いて説明しました。また、日本のデータから「陽性者は圧倒的に20代が多いが、死亡者は高齢者、中でも80代以上が多い。高齢者の感染は少ないが、感染してしまうと亡くなるリスクが高い」と警鐘を鳴らしました。

新型コロナウイルス感染症と糖尿病の関係は?

西村教授は、3つの質問に答える形で、新型コロナウイルス感染症と糖尿病との関係を、コロナ患者のデータを用いて次のように簡潔に説明してくれました。

1糖尿病があるとコロナにかかりやすい?

中国とアメリカのコロナ患者に占める糖尿病患者の割合を見てみると、中国ではコロナ患者2,018人における糖尿病患者の割合は10.3%、これに対して、中国の2013年の一般の糖尿病有病率は10.9%で、両者に差はありませんでした。アメリカでも、コロナ患者7,162人における糖尿病患者の割合は10.9%、2018年の同国の一般の糖尿病有病率は10.5%ですので、同様に大きな差はありませんでした。つまり、「糖尿病があるからと言って、コロナにかかりやすいことはない」ということです。

2糖尿病があると、コロナで重症化しやすい?

本年2月から3月にかけて、アメリカでのコロナ患者7,162人について、治療状況別に糖尿病患者の割合を見てみました。コロナ患者全体では、糖尿病患者の割合は10.9%でした。入院しなかった患者の糖尿病を持つ割合は6%でした。これに対して、入院治療を行った患者のうち、一般病棟へ入院した患者の糖尿病を持つ割合は24%、ICUで治療を行った患者の糖尿病を持つ割合は32%でした。このことから、「糖尿病とコロナの重症化リスクには関係がある」ことがわかります。

3どれくらい血糖をコントロールすればよいのか?

中国のコロナ患者7,337人について、血糖コントロール状況ごとの死亡率を見てみました。まず、糖尿病がない患者の死亡率が2.7%に対して、糖尿病を持つ患者の死亡率は7.8%でした。さらに、糖尿病を持つ患者のうち、血糖のコントロールが良好(入院中の血糖変動幅が70mg/dL以上180mg/dL未満の範囲。平均HbA1cは7.3%)であった患者の死亡率は1.1%、血糖のコントロールが不良(平均HbA1cは8.1%)の患者の死亡率は11.1%と、明らかに大きな差がありました。従って、「糖尿病患者がコロナで重症化しないためには、普段の血糖コントロールが大切だ」ということがわかります。HbA1cの目標としては7%、出来れば6%を目指して欲しい。また、HbA1cの平均値を見ているだけでは血糖コントロールの状況は判断できませんので、SMBG(血糖自己測定)やCGM(持続グルコースモニタリング)、FGM(フラッシュグルコースモニタリング)などの機器を使って、血糖の変動も見て欲しいと思います。FGMが無くても、例えば、私が提唱している「食後の0,1,2,3運動」というのは、SMBGを使って食事前、食時開始1時間後、2時間後、3時間後の血糖値を自分で測定して、血糖トレンドを推測するというものです。皆さんも是非、いろいろなところで測定してみて、低血糖はないか、食後の高血糖が見られないか 、血糖値が180を超えていないかなど、チェックしてみてください。

新型コロナウイルス感染症と糖尿病対策

西村教授は、糖尿病患者の皆さんも「マスク、うがい、手洗い」、「3密を避ける」、「こまめな換気」など一般的に推奨されている感染症予防策の徹底が大事だと強調。さらに、本年6月に『血糖トレンド委員会』が定期的な通院を必要とする患者さんを対象に行った調査で、「新型コロナウイルスの流行が始まってから、20.4%の人が感染予防を理由に通院を自粛した」と回答した一方、同じ調査で「自粛期間中、普段よりも自身の体調管理を意識していたと答えた人が58.6%に上った」ことを紹介しました。

そこで、体調管理という観点から糖尿病患者の新型コロナウイルス感染症対策のヒントとして、次の二つの事例が紹介されました。

事例1:生活習慣の改善

境界型糖尿病の45歳・男性の事例で、この方にはCGMを着けていただき、奥様にも協力いただいて、朝はサラダと目玉焼きにトースト、昼はサラダとカレーライス、夜はサラダとから揚げにご飯というメニューで、毎食、①しっかりサラダから食べる、②30回噛む、③食後、運動をする―というルールを守っていただいたところ、4日後、CGMにはっきりとした血糖値のトレンドの変化が現れました。

事例2:食品のGI値を活用した糖質の摂取

GI値とは、食後血糖値の上昇度を示す指数のことで、繊維質を含んだ食品はGI値が低く、食物繊維が少ない炭水化物はGI値が高くなります。血糖値が高くなるからと言って、炭水化物を抜く人がいますが、私は反対です。それよりも、炭水化物でもGI値をよく見て、同じ糖質を摂るにしても血糖値が上がりにくいGI値が低いものを摂るようにすることを考えてはどうでしょうか? 例えば、IGT(耐糖能障害)の患者でBMIが25.8の48歳・男性の事例では、フランスパンよりも繊維質の多い(GI値の低い)白米、さらに玄米、日本そばを食べることで、食後血糖値の上がり方が抑えられることが確認できました。

以上が、西村教授のレクチャーの概要です。西村教授は、終わりに当たり、「開けない夜はありません。新型コロナウイルスを正しく怖がって、対策を立て、誰も望まないと思いますが、共存の道を探しましょう」と呼びかけました。

2.糖尿病患者座談会
~新型コロナウイルス感染の再拡大に、これからどう備えるか~

糖尿病患者として座談会に出席したのは、いずれも『血糖トレンド委員会』の世話人で、管理栄養士の國枝加誉さん、料理研究家の相田幸二さん、元エアロビック競技日本代表で日本IDDMネットワーク副理事長の大村詠一さんの3人。西村教授もコメンテーターとして加わり、國枝さんの司会で討論が進行しました。

以下、出席者の主な発言をご紹介します。(なお、発言者の敬称は省略させていただきました)

Stay Homeでの生活の変化

國枝:Stay Homeとなって、糖尿病患者としての生活や健康、通院の面などで、どのような変化があったのでしょうか?

相田:3月に第3子が生まれましたので、病院では感染のリスクにかなり神経質になりました。

大村:緊急事態宣言が出てからは、家に引きこもりとなり、体重が増えてしまいましたので、今は家でも運動をしています。患者さんからは、通院への不安、感染リスク、重症化への不安の声が寄せられましたので、日本IDDMネットワークでは「よくある質問」としてまとめ、情報発信なども行いました。

國枝:私は医療機関で管理栄養士の仕事をしていますので、特に自分の感染予防に神経を使いました。在宅勤務に対する患者さんの声は、「在宅で接待や飲む機会が無くなり、肝臓や血糖値がよくなった」という声と、「在宅が増えて食べ物や飲み物が手元にあるので、ついつい食べたり飲んだりしがちで、よくない」という声に二分されますね。

相田:東日本大震災の時には“震災太り”を経験しましたが、“コロナ太り”もありますね。

國枝:自分の血糖値がわからなくなり、不安が増したという患者さんもいます。『血糖トレンド委員会』が行った調査では、先ほど西村教授も触れていましたが、「患者さんの2割が通院を自粛し、5割が今後の通院に不安を感じている」と回答しています。皆さんの通院状況はいかがですか?

大村:オンライン診療というのか、電話を使った診療に切り替えて通院を避けるようにしたのですが、主治医と直接お話したかったため緊急事態宣言解除後は、普段通りの通院に戻しました。

相田:2カ月に1回の外来から3カ月に1回の外来になりました。主治医とは、ショートメールで相談することもできます。患者さんの間では、オンライン診療を望む声と、否定的な声に二分されますね。若い人は、オンラインでもOKなのですが、年配者は先生と顔を合わせて、いろいろな相談をしたいと思っているようです。

國枝:我々糖尿病患者は、感染すると重症化のリスクが高いと言われており、緊張しながら生活を送っているわけですが、これから秋冬にかけてはインフルエンザも流行すると言われています。次に、感染拡大にどう備えるべきなのか考えてみたいと思います。

新型コロナに備えたStay Home生活のポイント

國枝:『血糖トレンド委員会』では、新型コロナに備えたStay Home生活で患者が出来る工夫のポイントとして、次の3点を挙げていますのでご紹介します。

①ながら運動で基礎体力を維持
②べジ&たんぱく質ファーストの食事
③血糖コントロールは1食ではなく1日で考える

以後は、この3点に関連して、コメントをいただきたいと思います。

大村:私からは、生活の中に組み入れて簡単に出来る「ながら運動」を二つご紹介します。一つ目は椅子に座ったまま背筋を伸ばして、腿を引き上げたり下ろしたりする運動。二つ目は、床に両足を投げ出して座ったまま前に進む「お尻歩き」です。上半身をひねりながら進んだり、腕を前に出しながら進んだり、横に移動するのも楽しいです。運動はまとめてやらず、1日何回かに分けて行うのもよいでしょう。

エクササイズの映像は
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相田:外食が出来ない分、コンビニのお弁当や総菜を利用する機会が増えていますが、コンビニのお弁当は炭水化物が多く、血糖のコントロールが乱れることにもなりますので、ひと工夫してみてください。例えば、カップラーメンに、電子レンジで温めたコンビニのカット野菜を加えてみるとか、コンビニのお弁当を食べる前に、もずく酢を食べるだけでも、よいのです。

國枝:血糖を急上昇・大幅上昇させないためには、ゆっくりよく噛んで食べる、食物繊維は水溶性、不要性の両方を摂るなど、「上げにくくする」要素を増やしましょう。吸収されやすい単純糖質、調味料・飲料などは、血糖のロケットスタートに繋がるので、要注意です。また、ベジファーストで野菜・海藻・きのこなどの食物繊維を最初に食べる際には、肉・魚・卵・大豆製品などのたんぱく源も足して、一緒に食べてください。たんぱく源は消化に時間がかかり、胃から腸へゆっくり運ばれますので、血糖変動は穏やかな波になります。また、筋肉維持のためにもたんぱく源は毎食食べることが大事です。3食とも主食、主菜、副菜をバランスよく食べることで、穏やかな血糖変動をめざしましょう。

食事に関する解説スライドは
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西村:ここまで、患者さんとして実践されている生活面での工夫をお聞きしてきましたが、色々なやり方がありますので、皆さんも原則は守りながら、それぞれ自分にとって心地よいパターンを見つけて、取り組んでいただければと思います。今回の座談会が、よい方向に向かう一つのきっかけになればと願っております。

以上で座談会は終了。この後、「みんなの疑問にお答えします!質問コーナー」と題して、事前に寄せられた質問に、出席の皆さんが一つずつ回答しました。

(質疑応答の内容は、血糖トレンド委員会のWebサイト「お役立ちコンテンツ」内の「糖尿病・血糖トレンドに関するQ&A」のページにまとめられていますので、ご参照ください)